著者のおおやぶゆき氏はちょっとした知り合いで、本を1冊出しているということを知り、すぐにAmazonでポチりました
この本は7つの短編小説で構成されています
著者はまだ25歳の若い小説家で
今は別の仕事をしているのですが、時間を作ってまた本を書いているようで
今後は本を書くことで食べていきたいという熱い思いを秘めているようです
せっかくなので1日一話ずつ噛み締めながら読んでいこうと思います
十三時の勇気
不動産会社に勤務する、どこにでもいるような平々凡々な27歳男性「拓磨」が、
仕事に対して、上司に対して、客に対しても裏では悪態づきながら、
とある客に出会ったことがきっかけで仕事に楽しさを見出すフィクション
確かに、これ経験したことあるなと社会に出た人なら誰でも共感を得る作品になっています
まだまだ言葉の言い換えや、句読点のつき方など読みづらいなと感じるところがあり、まだまだ未熟な作品ではあるが、処女作を出したことに対する賞賛を贈りたい
真夜中の卵焼き
金融会社に勤める社会人1年目の「鉄太」と、昔はよく遊んでもらっていたが今は老人ホームに入っている91歳の「とも子おばさん」との思い出を事細かに振り返りながら、
とも子おばさんとのお別れの際に鉄太から様々な感情が溢れ、また、やるせなさが残るストーリー
小さい頃から尽くしてくれたとも子おばさんに対して、気持ちが離れてしまった愚かな自分に対しての「怒り」と
とも子おばさんを亡くしたことに対する「悲しみ」が溢れる
親孝行、したいときに親は無しとよく言いますが
人の死を理解できる年になり、大人になっていく段階に起こりうる若者の視点で描いたストーリーとなっています
目を瞑れば
三人の出会いは中学生に上がった頃
都内の同じ大学に通う仲良し女子三人組が、来年から始まる就活を前に富士山の麓のキャンプ場へ向かう
富士山の雄大さに旅の疲れも吹っ飛び、
夜が更ける前の焚き火の準備に手間取りながらも、アヒージョを作ったり
キャンプの1番の醍醐味である星空をレジャーシートに寝転がって見たりと
どこか懐かしく
赤の他人から自分を見定められる就活の前の
安らぎのひとときを感じられます
主人公の「美奈」は実は女性の心を持った男性で、他の二人はそんなこと気にもせず友人として付き合ってくれている
また親へのカミングアウトや
自分はこう生きていくと決めているけど、周りから向けられる視線など
自分のことだけど、自分でも自分が何ものなのかわからない
自分の性や異性にも興味が出てくる多感な中学生の時期を思い返して
大人になった今後も続くであろう苦痛や葛藤を描いています
この物語は自分が中学生の時に経験してたような、若く未熟だったからこそ経験した、思い返すと恥ずかしい、変な感情を思い出しました
変わらぬ想い
子どもを産めなかったが50年連れ添った老夫婦の物語
それぞれの視点から結婚当初から夫が亡くなる直前の夫婦の感情が垣間見える
結婚前に子どもが産めない体だと知った時の夫婦の葛藤や
大喧嘩した時にもそれぞれの想いやりが見える
人生のパートナーがいなくってしまったからこその、悲しくもあり、でもどこか温かく、お互いにどれだけ想い合っていたのかが知れるストーリーです
金木犀の香りにつられて
夏から秋になる時期をきっかけに、高校で同じクラスにいながらも顔見知り程度の二人の距離が近づく様子を別々の視点から見ることができます
秋という、他の季節とは違った、特別な香りもする、また少し寂しくなる季節感を著者の独特の感性で描いています
大半の方は経験したことがあるであろう、ただのクラスメイトと同じバスに乗っただけのよそよそしさや、何気ない会話ができたからこそ、ほんの少し距離が近くなり、これから友人に発展するであろう妙な距離感が生まれる
うぶで若かった時代を自分ごとのように振り返ることができる、そんなお話です
このバス停から
自分勝手だった男の罪により、離れ離れにしまった娘に対する密かな親心がとても沁みる物語
この話から何故かとてもスムーズに読みやすくなってきた
順を追ってこの主人公の男の生活感や感じていること、考えている事が一つずつゆっくりと描かれており、話に入り込みやすい
また、この本は独立した短編小説とばかり思っていたので、ぜひ最初から順番に読んでもらいたい
なぜ順番に読んで欲しいかわかった時は、少しばかり感動するはずです
次の話がこの本の残り一話かと思うと残念な気持ちと同時に、最終話を読むのがとても楽しみになってきました
僕の朝には満月が昇る
教師5年目の男性が同い年の同じような悩みを持つ幼なじみから「活力」をもらい、教師の仕事の重要性や面白さを見出すきっかけになる話
実はこの本に伏線が巡らされていて、最後まで読んだ時に、おおなるほどと、体がゾクっとなる感覚があり、感動させられました
これに気づいた時、まだ見逃したところもあるかも知れないと、もう一度読み返したくなる本です
【総評】
どのストーリーも一般的な人の人生の一コマを切り取ったもので、すごく、身近に感じるストーリーでした
最初の方のストーリーはまだまだ拙い文章だったり、話の前と後でどうも繋がりがわからなかったりと、読んではちょっと考えて、理解してを繰り返し、という感覚でした
しかしこの著者の感覚に慣れていくにつれて本の中に引きこまれていき、あっという間に読み終えてしまいそうでもったいないなと感じたため、1日一話に読んでいこう、と決めました
7日目の今日、ついに読み終わってしまい私の心はじんわりと穏やかになり、著者の次の本が読んでみたい気持ち、それ以外にも著者の頭の中はどうなっていたんだろうという考えがあり、本を書く人の凄さを感じました。
機会があれば、著者に直接、この話のこの部分はどういう意味なのか、この本のタイトルの意味は私が感じていることと同じなのか、答え合わせしてみたいと思います。

僕たちの朝には満月が昇る (文芸社セレクション)


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